【寄稿6】東日本大震災から10年、今、私たちが考えていること

2021.03.03

てんかん科長
中里 信和

かつて国際学会で仙台にお招きした米国アーカンソー大学のロワリー先生から、震災直後に安否を問うメールが届きました。一緒に温泉を楽しんだ仲でしたので「あの露天風呂も大丈夫か?」と続きます。彼は巨大ハリケーンの被災地支援のため、母校に遠隔医療センターを運営していました。そして「津波の被災地支援にも、きっと役立つ」とハイビジョン遠隔会議システムを2台、当院に届けてくれたのです。気仙沼市立病院を結ぶ遠隔てんかん外来は、2012年3月、こうして始まりました。

てんかんは誤解や偏見の多い疾患です。専門医がテレビ越しに患者さんと向き合えば、診断の精度が高まります。立ち会う被災地の医師も専門知識を身に付けます。同じ装置で症例検討会も共有できるようになりました。このことが口コミで国内だけでなくアジアや北米にもつながり、遠隔てんかん症例検討会に発展したのでした。この取り組みは厚労省からも注目され、2020年春の診療報酬改定では「遠隔連携診療科」の新設に結びつきました。

コロナ 禍の今、遠隔会議は珍しいものではなくなりました。しかし遠隔医療となると、日本の規制は海外に比べて厳し過ぎるのが実態です。以前から東北では都市部と地方との医療格差が問題でした。当院の遠隔医療は震災を契機に始まりましたが、コロナ 禍を乗り越えて、全国の地域医療改革の救世主としても注目され始めています。

A=オンライン診療連携:患者の地元のかかりつけ医がオンラインで専門医と連携。
B=専門オンライン診療:遠隔地の患者に専門医がオンラインで診察。
参考:中里信和著「もっとねころんで読めるてんかん診療」(メディカ出版、2020年)

中里 信和(なかさと のぶかず)
1959年岩手県出身。1984年東北大学医学部卒業。同脳神経外科助手、米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校医学部?研究員、広南病院?臨床研究部長および副院長を経て、2010年より東北大学大学院医学系研究科てんかん学分野教授、当院てんかん科長に就任。
11月24?30日は
医療安全推進週間
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