かつて国際学会で仙台にお招きした米国アーカンソー大学のロワリー先生から、震災直後に安否を問うメールが届きました。一緒に温泉を楽しんだ仲でしたので「あの露天風呂も大丈夫か?」と続きます。彼は巨大ハリケーンの被災地支援のため、母校に遠隔医療センターを運営していました。そして「津波の被災地支援にも、きっと役立つ」とハイビジョン遠隔会議システムを2台、当院に届けてくれたのです。気仙沼市立病院を結ぶ遠隔てんかん外来は、2012年3月、こうして始まりました。
てんかんは誤解や偏見の多い疾患です。専門医がテレビ越しに患者さんと向き合えば、診断の精度が高まります。立ち会う被災地の医師も専門知識を身に付けます。同じ装置で症例検討会も共有できるようになりました。このことが口コミで国内だけでなくアジアや北米にもつながり、遠隔てんかん症例検討会に発展したのでした。この取り組みは厚労省からも注目され、2020年春の診療報酬改定では「遠隔連携診療科」の新設に結びつきました。
コロナ 禍の今、遠隔会議は珍しいものではなくなりました。しかし遠隔医療となると、日本の規制は海外に比べて厳し過ぎるのが実態です。以前から東北では都市部と地方との医療格差が問題でした。当院の遠隔医療は震災を契機に始まりましたが、コロナ 禍を乗り越えて、全国の地域医療改革の救世主としても注目され始めています。