放射線治療医を志したのは、医学生のとき。実習で機器の発展に触れ、放射線治療の可能性に魅力を感じました。実際、放射線治療はこの10年で大きく様変わりしました。かつては治すことが難しい進行がんが主な対象でしたが、手術や抗がん剤などを組み合わせる集学的治療が主流となった今では、完治を目指した治療が多く行われています。
一方で、放射線治療を受けられる患者さまは、まだまだ少ないのが実情です。先進諸国では、がん患者の約6~7割が受けているのに対し、日本では、約3割。被爆国として放射線に対する慎重な反応や、悪いものは切ってしまいたいという病気に対する考え方が根底にあるのでしょう。医療者側にも、ひと昔前の印象が強く残っているのかもしれません。
放射線治療の最大のメリットは、臓器の形態と機能を温存できることです。例えば、学校の先生が咽頭がんを患ったとしたら、声を失わずに治療できた方がいい。もちろん、手術でしか治らないがんもありますので、放射線治療にこだわらず、全ての患者さまそれぞれにとって最善の治療とは何かを、診療科の垣根を超えて検討して治療計画を立てること、これが私たちが目指す医療ですし、その実現のために、外科の先生にも私たちをうまく使ってもらいたいと思っています。患者さまからも、医療者からも相談しやすい放射線治療科でありたいです。
人材育成もまた、私たちの使命です。放射線治療や機器開発に長い歴史と伝統を持つ東北大学では、照射だけでなく合併症のケアまでが放射線治療医の仕事、と育てられます。日々、過去の膨大なデータを顧みて、治療計画と副作用の関係を解析し、改善?向上に取り組んでいます。医師だけでなく、診療放射線技師、医学物理士、看護師がお互いに尊敬し合い、率直に相談できる関係を築くことも安全な治療に欠かせません。ここ東北大学から、質の高い人材を送り出し、東北地区全体の放射線治療を支えていきたいと考えています。