東北大学病院では、日々、様々な手術が行われています。
一人ひとりに合った医療を実現するため、医師や看護師に与えられている役割とは―。
―先生方にとって、手術の始まりはいつからですか?
海野 患者さまと最初に会って、インフォームド?コンセント(医師が治療内容を説明し、患者さまが十分に理解をした上で合意すること)を取るところからが手術の始まりだと思っています。学生にもよく言うんですけど、手術というのは唯一、人を傷つけても罰せられない仕事なんですよね。だからこそ、患者さまの納得と同意を得ることがすごく大事なんです。患者さまへの説明は充分時間をかけて行うようにしています。
山内 麻酔科は、外科とは逆に、体を切ることで起こる変化や痛みから患者さまを〝守る?立場になるので、術前の回診時から、できるだけ安心して手術室に来てもらえる関係づくりを心がけています。
佐藤 私たち手術部の看護師は、手術の前日に患者さまを訪問します。そこからがスタートだと思っています。
―齋藤先生の場合は、術後からがスタートになりますでしょうか?
斎藤 そうですね。基本的には集中治療部(ICU)で、手術を終えた重症患者さまの経過を診るところから始まります。
―では、手術室に入ってからの流れというのは?
海野 はじめに、執刀医?麻酔科医?看護師?臨床工学技士がお互いに自己紹介をして、その手術の流れや予想されることなどを確認し合う『患者安全確認』を行ってから、執刀に入ります。
佐藤 大学病院には手術に関わる医師がたくさんいるので、患者安全確認を行うことはコミュニケーションをとるための一つのきっかけになりますし、情報もきちんと共有できるので、すごくいいなと思っています。
山内 大学病院では4~5時間以下で終わる手術は少ないので、長時間集中し続けられるように、麻酔科医は〝指揮者?となって、主旋律を弾く外科医に力を存分に発揮してもらえるよう雰囲気をつくったり、いいタイミングで看護師に声をかけたりしながら、全体のリズムを整える役割も担っていると感じています。
海野 ある意味、一番冷静に見ているのは麻酔科医かもしれないですね。
斎藤 もし手術中に患者さまの血圧が下がったり出血が起きたりした場合は、執刀医とコミュニケーションをとりながら進めるようにしていますから、手術はまさに〝チーム医療?と言えますね。
佐藤 私も年々、チーム医療というのを感じるようになってきていて。昔は個の仕事というイメージが強かったんですが、最近は看護師の立場からも、一つの手術に対してどのように取り組むかという話に入れるようになってきたんですね。今後もこのチーム医療というものを大事にしていきたいと思っています。
海野 いや、看護師はまさしくチーム医療の要ですよ。
佐藤 いつも「安全に手術を行えるように」、そして「患者さまの不安や緊張を和らげるように」という意識を強く持って仕事に取り組んでいます。
―それから、最近ハイブリッド手術室や、手術支援ロボット『ダヴィンチ』を導入しましたが。
海野 ハイブリッドはもうだいぶ普及してますけど、とにかく新しい技術を開発したり、その検証を行うことは、大学病院の使命だと思うんですね。新しい器械が入ることによって新しい手術のやり方が生まれるわけですから、そういうものは積極的に取り入れていかないといけないな、と。
佐藤 昔はメスとセッシ(ピンセット)があれば、あとは執刀医の方針に沿ってやる感じだったんですが、今は新しいものがどんどん入ってくるようになって、準備の段階から手術の進め方、退室してからどういう管理をしていくかなど、細かく話し合いをするようになりましたね。その分、チームで話す機会も増えましたし、「皆で患者さまを守ってる」という意識が、より強くなった気
がします。
―手術が終わった後のことについて教えてください。
海野 僕たち外科医は、麻酔科医が患者さまを麻酔から覚ましている間に、ご家族の方に結果を説明することが多いですね。その後、齋藤先生のいるICUに引き継ぐんですが、主治医は外科がそのまま担当しますが、ICU担当の麻酔科医と協力して術後管理にあたります。
斎藤 ICUでは、人工呼吸管理と、それから鎮静?鎮痛に関して任せられています。
山内 昭和の頃は、「痛くて元気で何より」と言われていましたけど、今は薬や技術が進化したこともあって、「痛くなくて元気で何より」に変わりましたからね。痛みの少ない手術というのもすごく進化しましたし。
斎藤 鎮痛は、患者さまの管理の中で今、非常に大事な要素になっていると思います。それから人工呼吸についても外科の先生と協力しながら、なるべく早く離脱できるようにしています。
山内 患者さまの全身管理をするのが麻酔科なので、術後、それを熟知している医師のいるICUに引き継げるというのはすごく心強いです。
斎藤 麻酔科が術後を含めた全ての急性期の人工呼吸管理を行うというのは、実は東北地方ではあまりないことなんです。だからこそ東北大学病院の術後の管理レベルはとても高いと思っています。
海野 しかも、ICUを日本で初めて『集中治療部』と訳したのは、麻酔科の第三代教授を務めた岩月先生で。
山内 そのこともあってか、麻酔科のメンバーは皆、麻酔や術後に対するクオリティが高いし、若い医師もすごくこだわってやってます。
海野 東北の人ってどうしても我慢強いというか、遠慮される方が多いんです。でもやっぱり患者さまには、遠慮せずにいろいろ聞いていただきたいと思っています。昔は確かに、手術というと「医者がやるもの、患者は受けるもの」と捉えられていましたが、今は、医者と患者さまが相談して、「一番良い治療をやっていきましょう」という時代になりましたから。東北大学病院には各分野のスペシャリスト、エキスパートも揃っていますしね。
山内 とにかく私たちは、最高の質の医療、その方に合った医療を提供していきますので、ぜひ安心して来ていただきたいですね。
斎藤 そうですね。少なくとも日本で受けられる医療としては、かなり高いレベルのものを、提供できるであろうという自負があります。我々は患者さまを守る側の立場として、全力で力を傾注していきたいと思っています。
山内 この病院には、ICUを通して外科と麻酔科が気軽にディスカッションできる環境がありますしね。
海野 今求められているのは、早く終わる手術やがんを根こそぎ取る手術が上手い医師よりも、その患者さまに合った治療法をプランニングし、チームを統率していける医師だと思うんです。チームで取り組むことで、全ての患者さまに同じクオリティの医療を提供する。それこそが、東北大学病院の強みではないでしょうか。
斎藤 手術は、外科を中心にチームで取り組むことになりますからね。
佐藤 そうやって先生方が皆で相談して決めた手術なので、ぜひ安心してお任せいただきたいですね。それから看護師に対しても、抱えている不安や辛い気持ちを出していただけると、私たちももっと患者さまに寄り添っていけると思うので、素直な気持ちをそのまま言っていただけたら嬉しいです。
手術に関わる医療従事者は「分からないことや不安なことがあったら、とにかくなんでも聞いて欲しい」と口を揃えます。手術が決まったその日から患者さまの回復を目指し、体の状態、仕事や家族、普段の生活を把握し、さらに心のケアにも努めます。新しい技術を導入するのも大学病院の役割。東北大学病院では、数年前に高性能の血管撮影装置を組み込んだハイブリッド手術室や手術支援ロボット「ダヴィンチ」など、最先端の医療設備をいち早く整備し、あらゆる疾患に対応できる体制を常に整えています。最新の医療機器?技術とそれを深く理解し扱う医療従事者が主役である患者さまを中心に調和すること、それが安全で人にやさしい医療の実現につながると考え、一つひとつの手術にチーム一丸となって取り組んで参ります。