次世代放射線治療装置の導入 睡眠医療センター開設による効果とこれからへの期待
5番目の発表は、昨年2月28日に導入した次世代放射線治療装置MRリニアック「Elekta Unity(エレクタ ユニティ、以下ユニティ)」 について、神宮啓一放射線治療科長が紹介しました。ユニティは1.5テスラの高磁場の MRIとエックス線装置リニアックが融合したもので、特徴は大きく3つ。「1.5テスラMRIにより明瞭な画像が取得でき、正確な位置合わせができること。その日その場で 撮ったMRI上で治療計画を設計し直せること。照射中ほぼリアルタイムでMRIの画像が取得できるため、治療中腫瘍の位置ずれが起こった際に補正して周囲の被ばくを極力減らせることです。」
放射線治療科は年間1200人のがん患者さんを治療していますが、疾患によっては2カ月かかっていた治療が10日で終わり、患者さんが普段の生活を送りながら治療できる非常に有効な治療装置となっています。これまで主に前立腺がんの患者さんに適用しており、すでに120人の患者さんの治療が完遂。そのほか、膵臓(すいぞう) がん、肝臓がん、腎臓がん、オリゴメタスタシスなど軟部組織の転移を中心に活用しており、患者さんの満足度も高い治療です。
最後は、2020年10月に設立された睡眠医療センターについて、小川浩正センター長が発表しました。近年、睡眠に対する患者さんの興味が高まり、診療面においても高血圧や心不全、糖尿病、緑内障、認知症、周術期の呼吸管理など、各医療分野において睡眠呼吸障害が非常に重要なファクターだと分かってきており、注目が高まっています。睡眠医療センターは睡眠呼吸障害、中枢性過眠症、睡眠時随伴症、睡眠関連運動障害などを診断し、適切な治療方法を提案し、外科療法、呼吸療法、薬物療法、歯科療法に橋渡しをする役割を果たしています。
「終夜の睡眠ポリグラフィーと反復睡眠潜時試験を中心に、今後さまざまな特殊検査も取り入れて精度の高い睡眠診断を行っていきたい」と小川センター長。4月に外来窓口、外来検査室が立ち上がり、これまで脳波検査室で行っていた検査をいつでも行える形になります。地域医療連携も進めていきたい考えで、「眠れない、眠り過ぎる、眠る時間帯の異常、眠っている間の異常といった症状を治療しているが改善しない、他の治療法はないかという際はご紹介いただければ」と案内しました。
地域の医療機関から見た東北大学病院との連携状況と今後の課題や改善点
総会に続いて行われたのは、「連携医療機関からみた東北大学病院」をテーマにした座談会。地域医療連携センター青木正志センター長と東北大学大学院医療管理学分野藤森研司教授が司会を務め、仙台市立病院長の奥田光崇氏、東北公済病院長の仁尾正記氏、一番町きじまクリニック院長の木島穣二氏、土橋内科医院長の小田倉弘典氏と意見を交わしました。
年間300通、東北大学病院と双方向情報のやりとりをしている仙台市立病院。奥田氏は「それだけ医師同士の連携が密だと言えるのではないかと思います」と話します。医師や連携室からの意見によると、同じ診療科同士の連携は非常に良い一方で、専門科ではない科に紹介する場合の連携がうまく取れない場合があるとのこと。救急の現場からは、外来の応需と入院治療科が異なることでの不便がある、救急外来と入院病床がうまく連携していないという意見もあったといいます。
「病院同士で連携を強めることで、医療圏の中でより多くの患者を円滑に応需できる可能性が高まるのではないかと期待しています。東北大学病院は最後の砦だと、われわれ市中病院は思っていますので、難しい患者さん、病態不明の患者さんや重症の患者さんの応需もお願いできれば」と奥田氏。
両院は人事交流も盛んであることから、「多くの優秀な医師を派遣していただきありがとうございます、というのが第一です」と感謝を述べた上で、「派遣に当たっては研修医の指導も一つのミッションとして与えていただければ」と提案。ほか、働き方改革に伴う当直の派遣に対する懸念点なども伝えました。
仁尾氏は、東北公済病院が一般病棟の急性期を主体に地域の患者さんの紹介を多く受け、その中から当院に年間1000人ほどを紹介していることを説明。一方で高度急性期の患者さんの状態が落ち着いた段階で、回復期の病棟に引き受けており、当院からは年間300人以上の患者さんの紹介を受けています。
「地域の施設や機関から患者さんを引き受け、さらにその患者さんの求める状態に応じていろいろな病院に紹介するハブ機能が東北公済病院の一つの大きな役割と考えています。そういう意味でも、仙台の中心部にあることにも大きな意味があると思っています」と仁尾氏。「地域の皆さまから信頼されて、安心して選択される病院を目指しています」と力を込めます。
双方向で情報提供を盛んにし紹介のハードルを下げて地域でより信頼される病院に
続いての発表は一番町きじまクリニックの木島氏。気仙沼市で木島医院として開設した同院は東日本大震災で被災し、翌2012年に仙台市一番町で移転開業しました。乳がんの針生検での発見が年間120例前後で、約半数の患者さんを当院に紹介しています。連携に関しては、当院が乳がん確定患者さんの予約枠を確保していることについて、「比較的早くご紹介できる体制を取っていただいていますので、患者さんは本当に助かっています」と感謝を口にします。
「がっかりして帰られた患者さんが、東北大学病院に行くと心のケアも含めいろいろな方がチーム医療でサポートしてくれることで明るくなって、『紹介してくれてありがとうございます』と言っていただけたことがありました」とも。治療計画について担当医師から手紙が届き、逆紹介で術後の患者さんなどの経過を同院で見るなど、連携の良好さも紹介しました。
最後は土橋内科医院の小田倉氏。東北大学病院から歩いて10分ほどの場所にある同院では1年間で84人、1週間に1?2人を各科に紹介しています。小田倉氏は当院との連携について、事前に青葉区内の医師にヒアリングした結果を報告しました。紹介状を当日ファクスで送るケースにおいて当初は患者さんを待たせることも多かったやりとりがスムーズになってきた一方、当院内でさらに別の科に紹介された場合に、その後の情報が途絶えることがあるという指摘も。
また、東北大学病院の各科の医師が各診療所の特性を把握しているか疑問があるとした上で、「むしろ我われ開業医の組織が、そうした情報提供を大学の先生にしていくべきではないかという話になりました」と続けます。「東北大学病院への紹介は我われにとってハードルが高いことでしたが、少しずつ取り払われてきたと思います。まだ安易には紹介できない感じもありますが、今日のような場で、双方向で情報をキャッチボールすることが非常に大事」と訴えました。
その言葉を受け、東北大学病院に紹介することに対するハードルや課題について、残りの時間で意見を交わした登壇者の皆さん。進行役を務めた青木センター長が「大変良いサジェストをいただき、ありがとうございました。東北大学病院としてもハードルを下げてはいるつもりですが、より気持ちよく紹介していただけるような病院を目指していきたいですし、すぐにお返事や報告をして信頼される病院になっていきたいと思います」と締めくくりました。
※地域医療連携協議会は2023年2月7日開催、肩書は当時のもの。