東北大学病院は東北地方で唯一の小児がん拠点病院です。小児がんは成人と比べて頻度が少なく発見が難しい反面、治療法等の進歩により、近年では治癒率が飛躍的に向上しています。退院後を見据えたトータルケアの重要性が高まる中、当院では、長期入院する高校生の学びをサポートするため、宮城県教育委員会と連携した遠隔教育や、医学部学生との学習機会の提供など、さまざまな取り組みを行ってきました。当院小児科が多職種連携で支える高校生への学習支援についてレポートします。
東北大学医学部学生による「高校生学習支援サークル」
もう1つの学習支援は、2017年に医学部2年生有志6名とともにスタートした「高校生学習支援サークル」によるものです。患者さんが希望する科目について、サークルメンバーが家庭教師のように学習を支える仕組みで、2019年までは病室やAYA(アヤ)ルームで、新型コロナウイルス感染症の流行が始まってからはオンラインを通じて、個別の対面授業を行っています。2022年までに利用を希望した患者さんは新規だけで20名近く。県立高校が本格的に遠隔授業による学習支援を開始した2020年以降も、私立高校など遠隔授業に対応していない高校の生徒を対象に支援を続けています。
この学習機会を利用したSさんは、「高校から教科書やワークブックは購入できますが 、自分だけで勉強していてはわからないことが多かったです。その時、支援サークルの方に教えてもらう機会があり、理解が進みました。学生さんということもあり、質問しやすいです」と話します。退院当日もAYAルームで熱心に得意な数学の問題集に取り組んでいた高校1年生のOさんは、「入学式を迎える前に入院となり学習や進学に不安を感じていたところ、主治医から支援サークルを紹介されてすぐ利用を決めました。2名の学生の方とともに週2回ほどオンラインで英語と数学の学習を続け、勉強への不安がなくなりました」と振り返りました。Nさんも、「一人で学習を進めていたものの、進度や理解度に自信がない時、サポートがあったことでより効率的に進めることができたと思います。復学後に再入院した時も、支援サークルの学生の方に相談することで学習の遅れによる不安を軽減することができたと思っています」と自信につながったと話します。
一方、闘病生活をサポートする荒井彩乃?公認心理師は生活面での効果も見られると言います。「入院中の高校生は主体的に取り組める昼間の日課が少ないのですが、学習の時間があると、起床するモチベーションになり、生活に活気が生まれるのがよくわかります」。実際、Sさんからも「長期入院中は、勉強も含めて意欲があまり出てこないので、決まった枠があった方がありがたいです」という感想が聞かれました。
支援の鍵は人?機関?制度のネットワーク
高校生の学習支援を後押しした背景の一つに、当院が東北地方で唯一の小児がん拠点病院であることがあげられます。小児がん拠点病院は、国の「がん対策推進基本計画」に基づき、難治性や専門的診療が必要な病児の治療を集約的に担うため、北海道から九州まで全国7ブロックに15施設が設置されており、ブロック毎の小児がん拠点病院?小児がん連携病院間のネットワーク化促進、AYA世代への対応強化、医療安全体制推進の3つを重点項目に掲げています。東北ブロックの拠点病院である当院では、9つの小児がん連携病院(うち1病院が宮城県内)による診療ネットワーク整備を進めています。
当院小児腫瘍センター長として小児がん拠点病院の活動の中核を担い、高校生に対する学習支援の体制構築を進める笹原洋二?小児腫瘍科長は、教育を受ける権利、普通教育を受けさせる義務は、日本国憲法にも明記されており、入院中であっても教育の機会を提供するためのサポート体制が欠かせないといいます。「患者さんのニーズに応えられるシステムや院内の連絡ルートが確立するまでには調整が難しい場面もありましたが、宮城県教育庁高等教育課や医教連携コーディネーターの熱意とご尽力、そして院内のさまざまな部署や多職種の治療チーム関係者の協力により、安定した支援ができるようになりました」。
2022年4月からは小児科だけでなく、全科の患者さんに学習支援の範囲を広げました。心療内科、血液内科、皮膚科等から利用希望が寄せられています。「クラスメートや原籍校とのつながりを絶やさないこと。これが留年や退学を避けるためにも重要です。学業を継続したいという患者さんの思いを支える活動を続けていきたい」と笹原小児腫瘍科長。今後も、高校による支援体制のばらつき改善や私立高校への支援拡大、特別支援学級に在籍する生徒への支援など、多様な事例にきめ細かく対応することで学校現場との連携を深めるととともに、講演会などを通じて市民と課題を共有しながら支援を進める方針です。
【取材:長谷川麻子、撮影:東北大学病院広報室】