東北大学病院は東北地方で唯一の小児がん拠点病院です。小児がんは成人と比べて頻度が少なく発見が難しい反面、治療法等の進歩により、近年では治癒率が飛躍的に向上しています。退院後を見据えたトータルケアの重要性が高まる中、当院では、長期入院する高校生の学びをサポートするため、宮城県教育委員会と連携した遠隔教育や、医学部学生との学習機会の提供など、さまざまな取り組みを行ってきました。当院小児科が多職種連携で支える高校生への学習支援についてレポートします。
長期入院中も勉強を続けたい
入院中の患者さんにとって、最も気になることの一つが学業の継続や復学。がんを経験したAYA(アヤ)世代(*1)のうち、15~19歳の約4割が「学業」を悩みの1つに挙げています(*2)。当院には院内学級として、仙台市立木町通小学校と仙台市立第二中学校の分校が設置されており、専任の教員が常駐で児童?生徒の学習や生活を支えています。一方、義務教育ではない高校生に対しては、つい最近まで公的な支援が薄いという課題がありました。当院小児科では、独自の制度を導入するなど支援体制の整備に取り組み、2022年8月現在、2種類の学習支援を提供しています。一つは、文部科学省「高等学校段階における入院生徒に対する教育保障体制整備事業」の一環として宮城県教育委員会が実施する遠隔教育 (*3)、もう一つは、東北大学医学部の学生有志による「高校生学習支援サークル」です。
AYA世代の学習?進学を支える遠隔授業
宮城県では、入院中の高校生に対する教育支援についての調査結果を踏まえ、2020年より宮城県教育委員会による遠隔授業が提供されるようになりました。長期入院(二週間以上の入院をいう)中の高校生が希望すると、ICTを活用して、在籍する高校の授業にリアルタイムで参加できる仕組みです 。入院といっても、病状に応じた入退院の繰り返し、退院後の治療や生活制限、自宅療養等、患者さんがおかれる状況は様々です。各県には「医教連携コーディネーター」が1名ずつ配置されており、医療機関と在籍校のつながり役として、それぞれの患者さんの状況やニーズに合わせ、遠隔授業を中心とした学習機会の確保、復学支援が行われています。
当院でも、2020年よりこの制度を利用した遠隔授業を導入しています。希望する高校生は医師から説明を受け、実際に遠隔授業を受けることが決まると、ソーシャルワーカーや公認心理師が「医教連携コーディネーター」を通じて在籍校等と連携し、授業実施をサポートします。
授業は、ビデオ会議システムを通じてリアルタイムで配信され、患者さんは主に在籍校から貸し出されるタブレット端末を使用して授業に参加します。教室に置かれているテレプレゼンスロボットを遠隔操作することで、学校にいるクラスメートの様子を見たり、グループワークに加わったりすることもできます。
この仕組みを活用して高校との遠隔交流を体験したMさんは、学校?クラスの雰囲気がわかることで、遠隔授業は登校するときの安心材料になると話します。「高校入学が決まったものの一度も登校できないまま入院したので、クラスに自分の存在はないのだと思っていましたが、先生から自分の席を教えてもらい、気にかけてもらえているんだなと驚きました」とMさん。
当院小児科でこの遠隔授業を利用したのは、直近3年間で7名。病棟で学習支援に携わる野村広恵?公認心理師は「IT化に慎重だった公立学校の現場でも、新型コロナの流行をきっかけに対応がぐっと進み、病院での授業にもより積極的に対応してくださるようになりました」と話します。コロナ禍で学校現場の遠隔授業推進の動きが後押しされたことは、当院での支援にも追い風となっています。
*1 AYA(アヤ)世代:15~39歳の思春期?若年成人を指す。
*2 平成27-29年度厚生労働科学研究がん対策推進総合研究事業「総合的な思春期?若年成人(AYA)世代のがん対策のあり方に関する研究」の調査結果より。情報サイト「AYA」(AYAがんの医療と支援のあり方研究会)
*3 遠隔教育(メディアを活用した同時双方向型遠隔授業)では、ICTを利用して学校の授業がリアルタイムに配信され、病室から授業に参加し、教室にいるクラスメートとも双方向のやりとりができます。2015年以降、遠隔教育の制度化、病室等への教員の配置要件の緩和、修得単位数等の上限の算定緩和など、 長期入院中の高校生が教育支援を受け、進級?単位認定できるよう制度が見直され、要件緩和等が進んでいます(宮城県教育委員会「入院している高校生への学習支援」リーフレットより)。
入院生徒に対する教育保障体制整備事業
【取材:長谷川麻子、撮影:東北大学病院広報室】