東北大学病院は2024年5月7日、「先端歯科医療センター」を開設しました。歯周組織再生医療をはじめとした先進的な治療や、体への負担がより少なく安全な治療など、患者さんの多様なニーズに応える高度で専門的な歯科医療を提供する施設です。センター開設の目的と施設の概要、展望について、張替秀郎病院長、江草宏総括副病院長兼歯科診療部門長、齋藤正寛センター長に話を聞きました。
(4月24日に行われた内覧会?記者説明会の内容を再構成しています)
——まずは張替病院長より、先端歯科医療センター設置の経緯と目的を聞かせてください。
張替:東北大学病院は2010年に歯科診療部門が統合して以来、医科と歯科の密な連携を進め、共に充実した高いレベルの診療を行ってきました。今回、さらに高みを目指すために先端歯科医療センターを設置しました。
目的は大きく3つあります。一つは高度化している歯科診療に適応すること、もう一つは産学連携によって新しい医療をつくること、3つ目は高度医療人材の育成です。これにより、東北大学病院のミッションである研究、教育、診療の全てにおいて、さらに高いレベルの歯科診療ができると自負しています。
——ここからは江草総括副病院長、齋藤センター長に伺います。施設の概要を紹介ください。
齋藤:外来診療棟の、もともと歯科診療部門だった一画を改修して新たに設けました。東北大学の象徴である赤れんがを使った専用の入り口から中に入ります。入ってすぐの場所に外科処置室が2室あり、その1室には再生医療など先端的な診療をお届けできる先端の機器をそろえています。その奥に6つのブースに区切った一般診療室があり、そのほかに待合ラウンジと、外科処置室での手術の様子を遠隔でモニタリングできる部屋があります。
全体で193平方メートルというスペースに対して外科処置室と一般診療室の総チェア数が8台と、従来の診療室よりもゆとりを持たせたスペースを確保しているのが特徴です。
江草:大学病院でデザイン性のある診療室は少ないかもしれません。今回は東北大学専属のデザイナーの方に、東北大学らしいデザインをしてもらいました。全体は先進的なイメージを感じさせるメタリックと白を基調に、東北大学の伝統を示すれんが、癒やしをもたらす天然木のコンビネーションとなっています。
——その中では具体的にどのような医療が受けられるのでしょうか。
齋藤:近年、歯科の医療技術に関する機器が非常に進歩しています。従来技術では治らなかったものに対して、そうした先進機器を用いて治療を行います。虫歯治療であれば再発しにくい治療、歯周病治療であればぐらついている歯を元に戻す、かみ合わせが悪い場合はかみ合わせを元通りに戻す。そうした特殊診療を、先端医療機器に加え、これから販売される機器を使って医師主導治験でも行うことができます。
江草:例えば歯周病で失った歯の周りの組織や顎の骨を再生する医療や、口腔(こうくう)内スキャナーなどデジタル歯科機器を導入し、それを発展させるような臨床研究を行うことも想定しています。
そうした設備的な部分だけが特徴ではありません。東北大学病院は歯科の中に11の専門科があり、センターではそれぞれの専門家が集まって、患者さんの口の中を包括的に診ることによって、より良い口腔からの健康を提供できます。そういったコンセプトもここで育てたいと考えています。
——産学連携についてはどのような仕組みがあるのですか。
江草:先進的な医療をつくり出すのは大学の一つの役割でもあります。東北大学にはシーズ、つまり産業の種がありますが、最終的に医療として社会実装するためには、それを検証する場が必要になります。そういった点もこのセンターの役割の一つと考えます。ここで先進的な医療を行うことで臨床研究が行われ、その成果を企業さんが使って新しい医療を展開する。そういう場になることを想定しています。
また、東北大学病院で行っているASU(アカデミック?サイエンス?ユニット)(*1)を歯科部門にも展開します。企業は自分たちの商品が歯科治療現場でどのように使われているのかを見る機会は少ないと思われます。新しいものを開発するにも、現場を見たことがなければ、そこで何が課題になっているかはつかみにくいはずです。そこで、企業の方々に実際現場に入っていただき、医療人とものづくりをする方々でブレーンストーミングをして、さらに必要であればネットワーキングも行い、新しい提案の創出につなげていきます。
——想定している企業は。
齋藤:基本的には歯科メーカーと連携して新しい歯科の製品を作っていくという形になりますが、歯科医療関連以外の企業も歯科の製品を作っていますので、そうした企業全てが対象になります。
——3つ目の目的としている高度医療人材の育成について、具体的には。
江草:学生にとって先進的な医療を見る場は人材を育成する上で大変重要ですが、治療や手術の場を学生が並んで見ると、患者さんに圧迫感や不安感を与えてしまいます。そこで、遠隔で診療の細かい様子まで見られる部屋を設けました。映像ををリアルタイムで見ながらディスカッションができる。これからの時代に合った教育スタイルが提供できます。
齋藤:ここに若い歯科医師、あるいは地域の歯科医師に来てもらって手術を見て学ぶことができます。世界に通用する臨床家を育てるという目的から、このような場所を作りました。
——先端歯科医療センターがこれからどのように発展していくか、展望を聞かせてください。
江草:医療を提供する病院と患者さんの一対一の関係ではなく、さまざまな価値観を創出できるようなステークホルダーの方々が集まり、新しい事業を展開していく。そのようなイメージで、センターを発展させていきたいです。
齋藤:これまで主に首都圏に進出していた先端医療施設が仙台にできました。国際的な先端医療を東北の皆さんに提供するとともに、東北から世界に通用するような臨床家を育て、輩出していければと思います。
*1 ASU(アカデミック?サイエンス?ユニット):東北大学病院で臨床研究推進センターバイオデザイン部門が窓口となって推進しているプログラム。企業の方々が直接医療現場に入り、現場観察を通して多くのニーズを探索し絞込みを行い、新たな医療機器や医薬品?システム?サービスなどの製品化?事業化を目指す。