東北大学病院では今年9月にホームページ上で新患予約状況を公開、さらに来年春にはweb予約システムの導入を計画している。今年度就任した張替病院長を中心に、診療、経営、地域医療連携、医療DXを担当する副病院長、センター長に、地域医療連携の課題と展望について聞いた。
段差のないDXで アクセシビリティを向上
――最初に、病院長に就任されて掲げた当院の使命について医療連携の観点からお聞かせください。
張替:東北大学病院としてすべきことは、「先進医療の提供と新しい医療をつくること」「人材を育成すること」「地域医療を支えること」です。その基本となる医療連携に関しては、地域の先生方にとって東北大学病院がアクセスしやすい病院であることが重要です。診療元の先生が患者さんを紹介しやすい環境をつくり、大学病院の医療を提供する機会をできるだけ広げることで、東北大学病院の使命を果たすことが可能になるからです。将来的には、関連病院もしくはクリニックとのカルテ共有とか臨床情報を共有するところまでいくことができれば、紹介だけではなく、効率化などにも踏み込めるのではと考えています。それに対して具体的に何をするかということを、今日来ていただいた先生方にご尽力いただいているところです。
岡田:web予約システムは張替病院長が以前から構想されてきたことで、今、それが具現化してきたところです。第一段階として、今年の9月1日から、各診療科の新患予約枠を病院のホームページから見ることができるようになりました。空き状況をほぼリアルタイムで表示しているので、紹介元の先生方も紹介される患者さんも、どこが空いているかすぐに分かり、だいぶ予約を取っていただきやすくなったのではないかと思います。
今後は第二段階として、来年の2月から3月頃の公開を目標に、web上で実際に予約を取っていただくことができるシステムを目指して準備をしています。どのようなシステムかというと、webから予約を取ると予約票が2部印刷されます。1部を控えとして患者さんに渡し、もう1部は地域医療連携センターにFAXで送っていただいて予約が完了するというシステムです。これまでは、紹介元の先生方に地域医療連携センターに空いている枠を電話で問い合わせていただいて、さらに患者さんと打ち合わせて、予約票を書いて、当院にFAXを送るという段取りだったので、このシステムの導入で手続きはだいぶ簡略化されるのではないかと思います。最終形としては、診 療支援端末と連携させて、web上で予約を取ったら診療支援端末上でもすぐにそれが反映されるというのが一番良いとは思いますが、まずは、今申し上げたような形で進めています。
張替:DXは便利な一方で、そのような環境が準備できない開業医の先生もいらっしゃるのではないでしょうか。
岡田:そう思います。現在構築中のシステムは、webとFAXを組み合わせることで手続きはだいぶ簡略化されながらも、今までの手続きとの段差が小さい方法です。感覚的には、紹介元の先生方の環境によらない非常に良い方法ではないかと思っています。
大田:全ての連携医療機関に対してアクセスしやすくするには、アクセス元の医療機関のシステム環境への配慮が必要で、私もこのシステムがちょうど良いバランスをとった選択肢と思っています。ただやはり、将来的には電子的にFAXをなくしていく、紙をゼロにしていくことが望ましいですが。
張替:以前から東北大学病院の診療のハードルが高いと言われていたので、各診療科の細かな疾患名の枠が羅列されないように予約枠の簡略化に努めてきました。ただ、どうしてもFAX送信という部分が残ったままだったので、今回のようにwebへと切り替えていかないといけないと考えていました。岡田先生や大田先生がおっしゃっていたように、今回、利便性がかなり高まると思います。場合によっては、時間外でも開業医の先生がwebで予約できるようになるかもしれませんね。ちょうど去年から患者さんへのリマインドメールやLINEのサービスを導入しましたので、スマート会計も活用しながら、だんだんとDXを進めていくことができると思います。
ポストコロナの医療連携に求められること
――診療や経営面ではどのような課題がありますか。
亀井:大学病院は総合的に急性期に対応する病院ですので、適切に患者さんを紹介してもらうことが大事です。しかし、コロナが収束しても、患者さんがまだ戻ってきていないという現実があります。これは、患者さんの受診構造が変化していると考えますが、それがどのようなものかを注視していくこと、それに見合った受け入れ体制と紹介体制を今後は考えていかないといけないと思っています。
岡田:地域医療連携センターを介する新患の予約数を見ると今年の4月- 8月は2020年?2021年の同時期と比べて、増えています。一方、2019年と比べると、5月と6月は同じか少し多いくらいで7月は少ないですが、8月から少し多くなってきており、19年程度には回復してきています。手術件数も回復はしてきてはいますが、まだ19年には届いていないという状況だと思います。
亀井:コロナの影響だと思いますが、手術時期を過ぎてしまっているような進行がんが多い印象です。検診が止まっていたとか、患者さんが病院に行くのをためらっていた ことなどの影響があるのかなと思います。いずれコロナ前に戻ると思いますが、その間、もしかしたら1?2 年程度、手術数が減るというのは全国的にもあるかもしれないですね。コロナが完全に終わった訳ではないので、不確定要素があると思いますが、かかりつけ医の先生と大学病院との連携を今まで以上に密にしながらも、きちんと役割分担するということかと思います。
香取:亀井先生がおっしゃるように、入り口を広げると同時に、多くの患者さんを地域の先生方にお戻しすることが大切です。患者さんに紹介元の先生や地域の先生のところに安心して帰っていただくために、診療情報をきちんとつなぐことが重要と考えています。十分な情報が紹介先の病院に届くということが分かれば、患者さんも安心して大学病院と地域の病院を行き来することができますし、双方の病院の先生にとっても有益だと思います。
現在、当院の逆紹介割合は40‰ (パーミル)前後です。特定機能病院の要件である30‰を超えてはいますが、さらに50‰超えを目指す必要があると考えています。日本の他の地域では、病院での診療を定型化したクリニカルパスのデータを他の病院と共有している施設があります。当院でも、使用しているクリニカルパスの内容を連携する地域の先生方にお知らせして、より良い診療の連携を進めていきたいと思います。
紹介から逆紹介までの見える化がカギ
――DXについての見通しを教えて下さい。
大田:国で電子カルテ情報を共有するための共通プラットフォームというのが掲げられつつあって、これから基盤が整備されていくという流れの中で、東北大学病院としてもそこに対応していけるように、将来的には、カルテ情報や紹介状を電子的にやりとりできていければと思います。
例えば、全国の病院を見ますと、看護師のワークシートをゼロにするといった、ペーパーレスの取り組みをしているような病院もあります。何が良くなるかというと、印刷→紙→手書き→取り込みという煩雑なプロセスがなくなり、医療従事者のインシデントが少なくなるということが想定されることに加えて、スピードアップを図ることができ、さらには記録が一元化されるということです。
今、ちょうどケアプロセスの無駄をなくす「LEAN(※)」という活動が始まったところなのですが、例えば、紹介を受けてから手術までの時間を考えた時に、どこの部分の無駄をとっていくと患者さんがすぐに手術ができて、その後すぐに退院することができるのかというのが分かってくると思います。それらに、DXが大きく関わってくると思いますし、DXとともに病院の中のデータ、例えば入院患者さん、病棟における患者さんの動き、検査の動き、そういうものを見える化していくこと、さらに、そのデータから分析してプロセスをどう改善するかという、つまり適切なPDCAサイクルを回すサポートをしていくことが必要と思います。
地域医療連携に対するDXという意味でのファーストステップは今始まったばかりですが、院内プロセスのDXを進め、効率化を図っていく必要があると思います。
香取:診療面で見ると、入院中の治療を標準化するクリニカルパスを電子カルテ上で運用し、治療の安全性と効率性を高めています。現在、約5割の入院患者さんに適応しています。パスはどこの病棟であっても同じように治療を行える利点があり、看護師さん方も慣れつつあります。もちろん個人の状況に応じた現場での柔軟な対応は必要ですが。 今後そこにプラスして外来のプロセスを含めていきたいです。大田先生がおっしゃるように、他の病院から患者さんの紹介を受けるところから、逆紹介してお返しするところまでシームレスに治療を標準化できると、より安全で効率の良い診療が進みます。病院で統一した基準が作れるとよいですね。
大田:おっしゃる通りと思います。それを考えたときに、病院のキャパシティとしてやはり大きな問題なのが、採血の待ち時間や生理検査などの待ち時間です。これをDXで解決していくのはかなり難しいのですが、地域医療連携が重要かなと思っていまして、院内でやらなければならない検査は院内で行い、他の病院でフォローできるような検査などに関しては、紹介元で行っていただくと、そこの検査待ちの部分が少し改善していけるのではないかと思います。
岡田:関連して、近々の問題として、新患の待ち時間が長いということがあります。なぜ長いのかというと、CDとかDVDの画像データの取り込みに時間がかかることが要因の一つとなっています。患者さんによりますが、データが多い場合は、1時間から2時間もかかる場合があります。さしあたっての対応として、地域医療連携センターの職員が紹介元の医療機関に連絡して、できるだけ前もって画像データを送っていただくようにお願いをしています。皆さんにご理解いただいて、快く対応してくださる医療機関が増えているようです。あっという間に取 り込めるようなシステムができれば良いのですが、とりあえずはそのような対応をしています。
web予約の先にあるカルテ共有
大田:もう一つ重要になってくるのが、地域医療連携センターの中での情報共有です。かなり先の話にはなりますが、カルテの情報、診療情報のみならず、検査情報なども共有していくようなことができると、そこで人の動きとともに検査結果も含めたデータのエコシステムが動いてくるのではないでしょうか。張替病院長にお聞きしたいのですが、東北大学病院のカルテは、一部の診療科を除いてかかりつけ医の先生が見えるようにするというのは、今後進んでいく方針で良いでしょうか。
張替:もちろんその方針で良いと思います。基本、かかりつけ医の先生の方が患者さんとの関係が密なので、我々の方は急性期の治療をしたら、普段はかかりつけ医で診てもらって、また必要な時に紹介してもらうというのが理想だと思います。そういう意味でカルテ共有ができれば、お互い安心感がありますね。
香取:紹介元の先生からよく言われるのが、最後に紹介の返事が来るまで、治療の経過が分からないということです。カルテを共有すれば、紹介医がリアルタイムでチェックでき、とても良いと思います。
張替:カルテが共有できれば逆紹介がしやすくなりますし、患者さんも安心してかかりつけ医に戻れます。また、かかりつけ医の先生もこちらの診療の内容が分かれば、患者さんとの連携も非常にスムーズ になります。結果として、関連病院やクリニックの先生との連携が強化できますので、双方に大きなメリットがあります。また紹介状の作成や取り込む作業などが削減され、医療従事者の負担軽減にもなると思います。このような次世代の 診療システムを作るのは普通の病院ではなかなか難しいと思いますが、東北大学病院には多くの専門家が在職しています。地域の先生方にも協力をいただき新しいモデルをつくりあげていくことは、東北大学病院の大事なミッションだと思います。
大田:多岐にわたる診療科と自律性をもつ各部門、それぞれの強みを生かしながら、円滑な地域医療連携につながるシステム構築を見据えて、DXを進めていきたいと思 います。
張替:期待しています。
※LEAN:工程を見直し無駄を徹底的に排除する手法